国総研レポート2020(研究期間 : 平成 30 年度~)
国土技術政策総合研究所 沿岸海洋・防災研究部 沿岸域システム研究室
室長 上島 顕司
研究官 小松﨑 真彦
(キーワード) みなとまちづくり,地域資源,水辺の活性化
1.はじめに
昭和60年代に始まった我が国におけるウォータフロント開発は、遊休化した旧港地区を再開発するものであった。その後、我が国のみなとの空間においてはイベントなどソフト対策がメインとなり、空間形成に係るまとまった取り組みは暫く行われてこなかった。そもそも、我が国の臨海部に存在する水辺等の地域資源、既存ストックについては、現在でも、その潜在的な価値や魅力を十分に有効利活用しているとは言えない状況が見られる。一方、欧米では現在も、臨海部の魅力を高め、地域の価値、競争力を高める整備が行われている(写真-1、2)。人口減少社会を迎えた我が国においても臨海部が有するこれら水辺等の地域資源、既存ストックの有効利活用を図り、海・みなとからみた地域づくり-新しいみなとまちづくり-を行うことにより地域の価値向上、定住人口・交流人口の拡大を図り、地域再生に繋げることが可能であると考える。
平成30年7月には国土交通省港湾局によって港湾における中長期政策「PORT2030」が公表され「クルーズ」「空間形成」が主要な施策の一つとして位置づけられた。
そのため、平成30年1月、みなと総合研究財団に「新みなとまちづくり研究会」を設置し、当研究室の協力のもと、海・みなとから地域づくりを進展させるための検討を始めることとなった。研究会には有識者、本省港湾局関係各課、関係財団法人の方々にご参加頂いた。有識者による現地調査(3回)、勉強会(4回)とともに、平成30年1月31日、平成30年12月20日、平成31年3月22日の計3回、研究会を開催し、令和元年5月、「新みなとまちづくり宣言」としてとりまとめた。ここにその概要を紹介する。
写真-1 サン・ラファエル(フランス)
マリーナに面して、地域の人々が散歩を楽しむことができる空間(プロムナード)が提供されている。
写真-2 ポルトフィーノ(イタリア)
岬の先端の不便なところに立地しているが、多くの観光客が船で来訪している。
2.新みなとまちづくり宣言の概要
まず、臨海部における従来のみなとの空間形成に係る課題を整理し、今後の新しいみなとまちづくりの方向性として、
・臨海部の地域資源の有効利活用による地域全体の価値向上(写真-3、4)
・ある程度の公的な計画によるコントロール
・臨海部と背後とのネットワーク化
の重要性を掲げた。
また、実際のみなとまちづくりの推進に際して、
・国、港湾管理者、市町村の連携及び関係者がヴィジョンを共有することの重要性を指摘するとともに、
・みなとの空間におけるにぎわい創出のための新しい計画制度の創設
・民間進出を促すための規制緩和、必要な財政支援
・みなと空間におけるにぎわい創出のための責任と権限を持った担い手の確保
・にぎわい創出の仕組みづくりに係る助言・情報提供、ガイドラインの作成、有識者の派遣・参画等
が必要である旨を提言した。
写真-3 西大分港
リノベーションした倉庫と前面の緑地が、地域住民の憩いの場となっている。
写真-4 尾道港
倉庫をホテルにリノベーションした例。
3.成果の公表
成果については、令和元年5月の交通審議会港湾分科会において「港湾における賑わい空間形成等に向けた取り組み」の一部で報告した。
また、広く有識者、研究者の参画を図り、新しいみなとまちづくりに係るヴィジョン・制度・計画手法等に係る議論と取り組みを推進するため、第60回土木学会土木計画学研究発表会・秋大会において、『「新しいみなとまちづくり」に向けて―海・港からみた地域づくり―』と題した企画セッションを立ち上げた。当研究室はオーガナイザーとして、テーマの企画、投稿論文の選定、当日の議論の運営方法の検討、進行等を担当した。当日は多数の参加者のもと、8本の研究論文発表とともに活発な討論を行なうことができた。
4.今後の方針
今後は、実際のみなとまちづくりへの助言を行うとともに、臨海部の資源の総点検・活性化手法、空間構成手法等に係るガイドラインを作成する予定である。
今後とも、それぞれの現場に様々な関係者が参画し、新しい知恵や様々なアプローチが生まれ、蓄積し、次の展開に繋がっていくことを期待している。
☞詳細情報はこちら
1) 新みなとまちづくり宣言http://www.ysk.nilim.go.jp/kakubu/engan/enganiki/teigen_R010529.pdf
2) 小松崎真彦、上島顕司:みなとオアシスに係る課題の把握及び今後の展開可能性に係る考察,第32回日本沿岸域学会研究討論会2019
3) 港詢子、小松崎真彦:新みなとまちづくり宣言,土木学会景観デザイン研究発表会,2019
4) 「新しいみなとまちづくり」に向けて―海・港からみた地域づくり―第60回土木学会土木計画学研究発表会・秋大会 http://www.jsceip.com/upload/conference/ip60_OS.pdf