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UAV・AI を活用した港湾等の インフラ維持管理に関する 点検・診断システムの開発

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国総研レポート2020(研究期間 : 平成 30 年度~)
国土技術政策総合研究所 沿岸海洋・防災研究部 沿岸防災研究室
主任研究官 里村 大樹
室長 山本 康太
研究員 辻澤 伊吹

(キーワード) UAV(無人航空機)、港湾施設、維持管理

1.はじめに
現在、高度経済成長期に整備された社会インフラの劣化が進行し、老朽化した施設が急増していることが社会問題化している。これは港湾においても例外ではなく、1960年代以降に集中整備された港湾施設の維持管理が深刻な課題となっている。また、港湾には、防波堤、岸壁などの施設が陸域・海域の両方に存在し、延長の長い施設では数kmに及ぶものがあるなど、維持管理のための点検は大きな労力が必要となる。さらに、港湾の施設は主として海洋環境下に設置されるため、他の土木構造物と比較して厳しい環境にさらされているといえる。このような状況で、人的資源・財源が限られる中、港湾管理者や民間事業者による港湾施設のより効率的かつ的確な維持管理の実施が求められている。
一方、建設業界では、点検に係る人手不足等の解消のため、UAV(無人航空機)の導入に関する検討が進められている。すでに橋梁点検の分野では専用のUAVも登場し、さらなる技術の発展が見込まれている。そこで沿岸防災研究室では、港湾管理者等のインフラ維持管理の効率化を図るため、UAVが撮影した画像データを元にD・4D化された港湾施設の維持管理データとAI(人工知能)による点検・診断を行うシステムを開発している。

2.港湾域におけるUAVを活用した施設点検の課題
港湾域におけるUAVによる施設の点検の実現には、幾つかの課題がある。
まず、UAV操縦者とUAVの機体は、電波通信により制御命令や画像情報を交換するが、港湾域に存在するガントリークレーン等の鋼構造物や、停泊している船舶が通信の障害となる場合がある。
また、本研究においては、空中写真測量により施設の3次元点群データ(施設の表面の三次元座標を持った点のデータ。以下、「点群データ」という。)を取得している。UAVを施設の点検に用いる利点として、施設等の写真撮影だけでなく、位置座標を持った点群データを取得し、3次元モデルを作成することで、段差等の変状を捉えることが出来ることが挙げられる。対象物に対して撮影範囲をラップ(重複)
させながら大量に撮影し、様々な角度で撮影した写真からSfM(Structure from Motion)技術によって特徴的な部分(特徴点)を抽出することで、点群データを取得する。しかし、港湾域では絶えず動く海面の特徴点抽出がうまくいかず、点群データの精度が低下するという課題がある。これは撮影画像から海面にあたる部分を除去することで解決できるが、人力で除去することは多大な労力がかかる。

3.点検・診断システムの概要
このように、港湾域でUAVを運用して施設点検を実施するためには多くの課題がある。そこで当研究室では、UAVとAIを組み合わせることでこれらを解決し、港湾施設の効率的な維持管理を実現するための「3D・4Dデータによる点検・診断システム」(以下、「点検・診断システム」)を開発している。
本研究では、長距離及び遮蔽物がある環境でも安定してUAVと通信し、リアルタイムに撮影画像を確認するため、中継UAV等によるマルチホップ通信によって電波通信を行う、遠隔地画像伝送技術を開発している。マルチホップ通信とは、複数の無線端末がそれぞれの隣接する無線端末を経由して、データを伝送していく、バケツリレーのような通信方法・技術である。この技術を用いると、操縦者とUAVの間に船体等の遮蔽物やガントリークレーン等の干渉物があった場合でも、それらを避けて電波の伝搬経路をつくることができる(図-1)。

図-1 遠隔地画像伝送技術

また、本システムでは、AIを用いて作業の一部を自動化することで、点検作業の効率化を目指している。AIによって撮影画像から海面にあたる部分を自動で除去(海面ノイズ処理)して点群データの精度向上を図るほか、撮影画像から施設変状を抽出する(施設変状抽出)過程を自動化することで作業員が画像を確認する手間を省き、負担を大きく減らすことができる(図-2)。

図-2 点検・診断システム概要

4.開発状況
本研究は2018(平成30)年度から実施している。遠隔地画像伝送技術の開発に関して、港湾域においてドローンを活用した事例が少なかったため、2018年度には港湾における電波環境の測定等を行った。その結果、試験を行った港湾では、本システムで使用を想定している電波の帯域(5.7GHz帯)は特に混雑していないことが確認された。また、2019年度には、無線モジュールの製作に加え、マルチホップ通信による画像伝送の試験を行う。
点検・診断システムについては、2019年度に全体システムを作成するとともに、海面ノイズ処理、施設変状抽出のサブシステムを開発する。海面ノイズ処理については、2018年度は2港でAIに学習させるための教師データを取得し、機械学習のモデルを作成した。作成したモデルでの海面特定の精度は97%であった(図-3)。2019年度は、海面の透明度の条件が異なる港で試験を行って教師データを取得し、モデルの改良を行う。また、施設変状抽出については、2018年度はひび割れ抽出の検討・モデル作成を先行して行い、ひび割れ抽出の精度は90%以上であった(図-4)。2019年度には、段差・目地の開き・欠損等、ひび割れ以外の施設変状についても検討を行い、施設変状抽出の適用範囲を拡大させる。

図-3 海面ノイズ処理結果

図-4 ひび割れ抽出結果

5.今後の開発予定
2020年度は、遠隔地画像伝送技術については複数経路の切り替えを含むマルチホップ通信の開発を行い、遠隔地画像伝送システムを構築する。点検・診断システムについては、全体システムの改良等を行うとともに、モデル港湾での実証実験を行う。

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