2019-04-18 宇宙航空研究開発機構,東京貿易エンジニアリング株式会社,川崎重工業株式会社,日本船舶技術研究協会
東京貿易エンジニアリング株式会社(代表取締役社長 坪内 秀介、以下TEN)、川崎重工業株式会社(代表取締役社長 金花 芳則、以下川崎重工)、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(理事長 山川 宏、以下JAXA)および一般財団法人日本船舶技術研究協会(会長 田中 誠一、以下JSTRA)は、内閣府が推進するSIP※1において、世界初の液化水素用船陸間移送ローディングアームを開発しました。
【開発したローディングアーム】 ©東京貿易エンジニアリング
水素は、太陽光や風力などの自然エネルギーと同様に、使用時に二酸化炭素を排出しない燃料として注目されており、燃料電池自動車や水素発電などの普及に向けた取り組みが行われています。日本は、低コストでの水素利用を実現するために、海外の未利用エネルギーとCCS※2との組み合わせおよび再生可能エネルギーから水素を大量調達できる国際的なサプライチェーンの構築において必要となる液化水素運搬船や液化水素荷揚基地の建設を進めています。
液化水素運搬船による海上輸送はこれまでに世界中で実績がないため、船と基地を繋ぐ重要な設備として液化水素用ローディングアームを新たに開発しました。液化水素の温度は空気の液化温度より低いため、既存技術のLNG用ローディングアームでは、移送時に配管表面に液体酸素が生成され、火災を誘発する可能性があります。この課題の解決策として、液体酸素を生成させない高い断熱性と安全に運用するための機構を備えました。本ローディングアームの主な特長は次の3点です。
①高断熱を実現する真空二重断熱構造
二重管構造の内外管の間を真空に保持することで高度な断熱性を発揮し、外管の表面を大気温度近くに保持することで、液体酸素の発生を防止。
②自由度が高い特殊な高断熱構造のスイベルジョイント(回転機構を有する管継手)
真空二重断熱構造を崩すことなく配管を接続でき、接続部に船舶の停泊位置の変動や動揺に対応する自由度を与えつつ、分子が小さい水素をリークさせない高いシール性能を実現。
③緊急時に液化水素を安全に遮断する離脱機構
液体水素の移送中に津波など緊急に離岸する必要がある際に短時間で配管を閉止し、安全に船体から配管を切り離すことが可能な機構を搭載。
本ローディングアームの開発は、LNG用ローディングアームの開発・製造で豊富な実績を有するTENと液化水素関連設備の製造で長年のノウハウを有する川崎重工が担当し、それらを様々な舶用関連技術を研究しているJSTRAが全体統括を担当しました。
また、本ローディングアームの特長であるスイベルジョイントと緊急離脱機構は、ロケット燃料として液化水素の扱いに関する知見を有するJAXAの能代ロケット実験場(秋田県)において、液化水素を用いた性能確認試験を実施しました。緊急離脱機構の切離し動作およびスイベルジョイントの長期稼働を見据えた40万回の反復回転動作の確認を行うことで、高い安全性と耐久性を確認しました。
今後、2020年度に実証試験を計画しているNEDO※3事業「未利用エネルギー由来水素サプライチェーン構築」の液化水素の海上輸送実証にて、本システムの緊急離脱装置の実証を行います。さらに、将来の商用化に向けた規格作りや大型化に向けた技術開発を進めることで、持続可能な社会の実現を目指します。
<開発したローディングシステムの主な仕様>
アーム長:11.5m
ベースライザー高:5.5m
材質(管部):ステンレス
構造(管部):真空二重構造。外力は外管で受け、内圧は内管で保持
主要要素:アーム駆動装置、スイベルジョイント、緊急離脱機構
※1 国家プロジェクトとして、科学技術イノベーションを実現するために創設した戦略的イノベーション創造プログラム(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)。2014年度から2018年度までの5年間で、SIPの研究課題「エネルギーキャリア」の研究開発テーマの1つである「液化水素用ローディングシステム開発とルール整備」として実施
※2 Carbon dioxide Capture and Storage(CO2回収・貯留)
※3 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構