「世界の遠い地域で起きている紛争を解決・緩和するために、日本の一般市民には何ができるのか、本当のことが知りたい」これが、本書を貫く筆者の問題意識である。
グローバル化が進む現代では、日本国内で暮らす一般市民でも、日常的な活動を通じて世界の遠い地域とつながっている。紛争も同じである。現代世界の紛争の多くは途上国に集中し、途上国の紛争傾向には、低所得、低成長、一次産品輸出への依存といった経済的要因が強く影響している。また、アフリカの資源産出国では、資源収入が政府軍、反政府武装勢力の双方において軍事費を支えている。こうした途上国や紛争地域から輸出される資源や産品を主に消費しているのは、先進国の市民である。私たちの日常的な消費行動が生産地における問題とつながっていることを自覚して責任ある消費選択をする、あるいは、消費者世論を形成して企業の行動を監視する、そうした活動によって私たち消費者は紛争の解決・緩和に貢献できるのではないだろうか。また、途上国の問題を解決するために援助を行う国際援助機関への重要な出資者は、先進国の政府や市民である。援助先で起きている問題と解決への取り組みを理解し、責任ある支援や提言のできる思慮深い市民になることで、私たちは紛争の原因となる経済問題の解決・緩和に貢献できるのではないだろうか。
本書の内容は、途上国の生産地と先進国の消費地との「つながり」をとらえる理論分析に始まり、植民地期からのコンゴにおける資源利用の歴史、土地とエスニシティと市民権をめぐるコンゴ東部での住民間の対立、1996年に始まるコンゴ紛争の経緯やその中での紛争資源利用の実態、産出された資源の流通経路やアメリカでの紛争鉱物取引規制の導入経緯、日本とコンゴのつながり、そして日本での消費者教育における実践分析まで、多岐にわたる。内容が幅広くなるのは、それだけコンゴの資源問題と日本とのつながりが複雑で、問題の根が深いためである。先進国に有利な世界経済の構造の中でコンゴの資源が利用され、現地社会に問題をもたらすという構造は、100年や200年の枠におさまらない、さらに長い歴史を持って展開されてきた。「人間の尊厳」を尊重し、公正な社会の実現を目指す現代の国際社会において、私たち一般市民はこの問題をどうとらえるべきなのか。本書では、「問題とのつながり」「問題解決とのつながり」「形而上的なつながり」という3つのつながりを通じてコンゴの紛争資源問題と日本の消費者とのつながりを解き明かした。読者にはこの3つの「つながり」を鍵としながらじっくりと考えてもらえればありがたい。
(紹介文執筆者: 政策ビジョン研究センター 講師 華井 和代 / 2018)
本の目次
第1章 「つながり」でとらえる社会的責任
第2章 世界経済の中のコンゴ
第3章 コンゴにおける紛争資源問題
第4章 消費地における紛争資源問題
第5章 日本にとっての紛争資源問題
終 章