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トンネル掘削直後の変形を利用して岩盤に作用する力を推定~一般的な変形計測を活用してトンネルの維持管理や地層処分場の設計・安全評価に貢献~

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2024-06-27 日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 高レベル放射性廃棄物の地層処分における処分場の設計や閉鎖後の安全評価では、処分場周辺の広い範囲の岩盤に作用する力(地圧)のかかり具合を評価する必要があります。しかし、これまでの計測手法は、比較的狭い範囲でしか地圧を評価できないことが課題でした。
  • 本研究では、トンネルの掘削直後の周辺の岩盤には、力を加えると変形しその力を除くと変形が元に戻るような単純な性質(弾性変形)があると仮定できることがわかりました。
  • トンネルの周りで生じた弾性変形の計測結果から、トンネル周辺の広い範囲の岩盤にどのような地圧が作用しているのかを推定できる手法を考案し、狭い範囲を対象とした既存の地圧の計測結果と矛盾のない結果を得ることができました。
  • 今回考案した手法は、地層処分事業において、人工バリアの設置場所の判断や埋め戻しの設計、安全評価に役立ちます。さらに、一般的なトンネル掘削後の健全性確認や地盤沈下の評価にも役立つことが期待できます。


図 地圧により変形を受けたトンネルのイメージと、トンネル変形量計測(内空変位計測)の様子

【概要】

トンネル掘削直後の岩盤は、力を加えると変形し、その力を除くと変形が元に戻る弾性変形という単純な性質を有していることがわかりました。そこで、そのことに着目し、トンネルの周りで生じた弾性変形の計測結果から、トンネル周辺の広い範囲の岩盤にどのような地圧が作用しているのかを推定できる手法を考案しました。

本研究は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範)幌延深地層研究センター 堆積岩工学技術開発グループの青柳和平研究副主幹、株式会社地層科学研究所の菅原健太郎チームリーダー、公益財団法人深田地質研究所の亀村勝美顧問、大成建設株式会社の名合牧人部長の研究グループによるものです。

高レベル放射性廃棄物の地層処分事業では、閉鎖後の安全評価において、処分場周辺の熱の状態や、地下水圧の分布、水の流れやすさの状態、水質などの情報に加えて、処分場周辺の広い範囲の地圧の状態を評価し、それらの情報を関連させて解析することが重要となります。また、処分場周辺の地圧状態は、人工バリアの設置場所の判断や坑道の埋め戻す際の設計時に参照すべき重要な情報となります。これまでの地圧計測手法は、数メートルから数十メートル程度の狭い範囲の地圧しか評価できない点が課題でした。このことから、直接的な地圧の計測に頼らず、地圧により圧縮された坑道の変形量を計測したうえで、広い範囲の岩盤に作用する地圧を解析的に推定する手法も研究されてきましたが、掘削終了後に岩盤の変形が落ち着いた状態で計測した値のばらつきが大きいことから、手法の妥当性の検証に課題がありました。

既存の手法において問題点の一つであったトンネル変形量のばらつきを解消するために、幌延深地層研究センターの地下施設を建設する際に掘削された多くのトンネルで行った変形計測(内空変位計測)の結果に対して掘削直後の弾性変形を示す計測値のみを抽出したところ、計測値のばらつきが小さくなりました。この分析結果を踏まえ、掘削直後の弾性変形を基に、トンネル周辺の広い範囲の岩盤に作用する地圧の状態を解析的に求めたところ、推定された地圧の大きさと方向は、狭い範囲を対象とした既存の計測結果と矛盾のない結果が得られました。

今回の手法は、内空変位計測というトンネル掘削における一般的な計測手法を利用している点や、堆積岩で見られる掘削直後のトンネルが弾性変形するとみなせることを応用している点において、広く堆積岩を対象とした地下空間開発事業において適用可能といえます。また、地層処分事業において本手法を適用することにより、処分場周辺に作用する地圧の大きさを評価できるため、人工バリアの設置場所の判断の根拠となる人工バリアの健全性に関わる岩盤の応力状態の変遷、坑道埋め戻しの設計、処分場を埋め戻した後の放射性核種移行挙動の評価に必要な情報が得られることが期待できます。さらに、一般的な土木工事におけるトンネル掘削後の健全性確認などの維持管理や、掘削後の地盤沈下の評価など周辺環境への影響評価にも役立つことが期待できます。

本研究成果は、2024年5月22日に、国際学術誌「International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciences」の2024年6月号に掲載されました。

【これまでの背景・経緯】

地下の岩盤には、実際の岩盤の重さや大陸プレートの動きなどに起因して、非常に大きな力が作用しています(図1)。この力を地圧と呼んでいます。高レベル放射性廃棄物の地層処分事業における処分場閉鎖時の埋め戻しの設計や、人工バリアの設置場所の判断、閉鎖後の安全評価を行う際は、処分場周辺の広い範囲の地圧の状態を評価する必要があります。

地圧の計測にあたっては、地下構造物の建設前にボーリング孔を掘削して、地圧を計測したい深度をパッカーと呼ばれるゴム製の装置で区切り、そこへ水を送り込んで水圧を上げ、人工的に岩盤を破壊したときの圧力の情報や割れ目面の方向性の情報を基に推定する手法(水圧破砕法)がよく用いられます。この手法により、多くの地点、深度で地圧の情報を集めて地圧の状態を評価することが、一般的に行われます。しかしながら、この手法は、数メートルから数十メートル程度の限られた狭い範囲の地圧状態の評価しかできない点が課題でした。さらに、岩盤の強度のばらつきや、もともと存在する断層や割れ目、地形の影響により、計測される地圧のばらつきが大きくなることも課題でした。

一方、前述の直接的な手法に頼らず、図1に示すような地圧による坑道の変形量を基に、広い範囲の岩盤に作用する地圧を解析的に推定する手法も研究されてきました。一般に変形量の計測にあたっては、図2に示す内空変位計測と呼ばれる手法を用います。これは、坑道の変形量を計測する断面の両壁に計測ピンを打ち込み、そこに内空変位計測装置に組み込まれている鉄製のテープを張り、計測ピン間の長さを計測することにより情報を得る手法であり、比較的簡単にデータを取得することができることから、着目されてきた経緯があります。ただし、地圧の推定にあたっては高度な計算が必要となることや、掘削終了後に岩盤の変形が落ち着いた状態で計測した変形量のばらつきが大きいことから、地圧の評価手法として妥当性の検証が十分ではありませんでした。


図1 地圧による坑道の変形のイメージ


図2 内空変位計測のイメージ

【今回の成果】

堆積岩に坑道を掘削すると、地圧の影響により徐々に坑道は変形します。掘削直後は、図3の左側に示すバネの概念図のように、弾性変形という、力を加えると変形し、その力を除くと変形が元に戻るような単純な挙動を示しますが、掘削が進展していくと、図3の右側に示すように、力を除いても変形が元に戻らない状態や、破壊するといった、弾性変形を逸脱するような複雑な挙動を示します。


図3 弾性変形とそれを逸脱する変形の概念図

幌延深地層研究センターのトンネル(坑道)では、坑道を掘削して岩盤の変形が落ち着くまで、定期的に内空変位計測を実施しました。様々な方向に掘削された深度350mの調査坑道(350m調査坑道)において、変形が落ち着いた状態で計測された変形量を、図4の左側に示します。その結果、全ての坑道の掘削方向で変形量のばらつきが大きい結果となりました。これは、掘削に伴って坑道周辺の岩盤の変形が弾性変形を逸脱し、複雑な変形をしたため、すなわち、図3の右側に示すような挙動が生じたためと推定されます。一方、坑道周辺には、掘削の影響により多くの引張割れ目が発達します1)。これらの引張割れ目は、発生後に岩盤に作用する力が変化してもしばらくは弾性的にずれたり開閉したりすることがわかっています2)3)。深度350mの岩盤については、最大1mm程度弾性的にずれることや、数百μm程度弾性的に開閉することがわかっています。これらの最新の研究事例を踏まえると、掘削直後は、岩盤は概ね弾性変形すると仮定できることがわかりました。そこで、図5に示すように掘削直後、すなわち変形量を計測する断面を掘削してからさらに2m掘削先端部(切羽)が進展するまでは弾性変形すると仮定したうえで、弾性変形のみ抽出して整理すると、図4の右側のグラフに示すように全ての坑道の掘削方向で変形量のばらつきが小さくなる結果となりました。

本研究では、350m調査坑道を含む広い範囲(数百メートル四方)の岩盤を対象として、坑道の周りで生じた弾性変形の計測結果から、坑道周辺の広い範囲の岩盤に作用する地圧を推定しました。その際、坑道を含む数百メートル四方の領域をモデル化したうえで実際の坑道の掘削を再現した解析を行うことにより、坑道を含む数百メートルの領域における地圧の情報を推定しました。


図4 変形が落ち着いた状態で計測された坑道の変形量と、掘削直後の変形量の比較


図5 掘削初期の弾性変形のイメージ

解析により得られた地圧の大きさを、地下施設建設前の調査により得られた結果と比較して図6に示します。この図は、最も大きい地圧(最大水平応力)と、最も小さい地圧(最小水平応力)の大きさを一つのグラフに示しています。本図から、解析により推定された最大および最小水平応力の値は、既存の計測結果と矛盾のない結果となりました。

次に、解析により推定した地圧の大きさを踏まえて坑道の掘削を改めて解析で再現したうえで、実際の計測結果と比較しました。図7は坑道を掘り進めた方向と計測された掘削直後の変形量、解析により推定された掘削直後の変形量をまとめて円グラフとして示しています。この図より、解析により得られた変形量は、実測値に概ね整合する結果となりました。また、図7の青色の矢印は、最も大きな力が作用する方向を示します。大きな力が作用する方向と直交する方向に掘削した坑道では、実際の計測結果も解析による推定結果も大きな変形が生じることが再現できています。このことから、大きな力が作用する方向についても妥当な推定ができたといえます。さらにこの力の方向についても、既存の計測結果と矛盾しない結果でした。ただし、断層や元から存在する割れ目の多い場所では、解析値よりも実測値の方が大きい計測箇所もありましたが、このような影響も含めて350m調査坑道周辺の数百メートル程度の広い範囲に作用する大まかな地圧の大きさや方向を解析により推定できることがわかりました。


図6 解析により推定した地圧の大きさと、既存の調査により取得した地圧の大きさの比較


図7 350m調査坑道における水平方向の変形量の計測結果と解析による予測結果の比較

【今後の展望】

幌延深地層研究センターの350m調査坑道の掘削時に行った内空変位計測により取得された掘削初期の弾性変形を活用することにより、数百メートル程度の広い範囲の岩盤に作用する地圧の大きさを推定することができました。今回提案した手法は、内空変位計測というトンネル掘削時に一般的に用いられる手法により得られた変形計測結果を利用しています。さらに、堆積岩に見られる、掘削直後の変形を弾性変形とみなせることを応用しています。これらの点より、今回提案した手法は広く堆積岩を対象とした地下空間開発事業に適用可能であるといえます。

地層処分事業において、この手法を適用して処分場周辺に作用する地圧の大きさを評価することで、人工バリアの設置場所の判断根拠となる人工バリアの健全性に関わる岩盤の応力状態の変遷や、坑道埋め戻しの設計、処分場を埋め戻した後の放射性核種移行挙動の評価に必要な情報が得られることが期待できます。さらに、トンネル掘削後の健全性確認などの維持管理や、掘削後の地盤沈下の評価など、周辺環境への影響評価にも役立つことが期待できます。

【論文情報】

雑誌名:International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciences, 178, 105776 (2024),
https://doi.org/10.1016/j.ijrmms.2024.105776

論文タイトル:Estimation of stress state using measured tunnel convergence in loop galleries excavated in mudstone

著者:青柳和平、菅原健太郎、亀村勝美、名合牧人

【役割】

青柳和平(原子力機構):計測・解析データ分析、応力状態の推定、考察

菅原健太郎(地層科学研究所):解析の実施、応力状態の推定

亀村勝美(深田地質研究所):手法の考案、解析の実施

名合牧人(大成建設):現場統括、データ取得

【用語の説明】

人工バリア
ガラス固化体、オーバーパックおよび緩衝材からなる地層処分システムの構成要素のことで、高レベル放射性廃棄物が人間の生活環境に影響を及ぼさないようにする障壁として、人工的に形成するものです。

【参考文献】

1) Aoyagi, K., Ishii, E., A method for estimating the highest potential hydraulic conductivity in the excavation damaged zone in mudstone, Rock Mech Rock Eng, 52, 385–401, 2019.
https://doi.org/10.1007/s00603-018-1577-z

2) Aoyagi, K., Ishii, E., Chen Y., Ishida, T., Resin-injection testing and measurement of the shear displacement and aperture of excavation-damaged-zone fractures: A case study of mudstone at the Horonobe Underground Research Laboratory, Japan, Rock Mech Rock Eng, 55, 1855–1869, 2022.
https://doi.org/10.1007/s00603-022-02777-z

3) Aoyagi, K., Ishii, E., Evaluation of temporal changes in fracture transmissivity in an excavation damaged zone after backfilling a gallery excavated in mudstone, Environ Earth Sci, 83, 94, 2024.
https://doi.org/10.1007/s12665-023-11416-x

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