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レーザーでインフラ点検を自動化「株式会社フォトンラボ」

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2023-01-30 中小企業基盤整備機構

2012年12月に中央自動車道で発生した笹子トンネル崩落事故。トンネルの天井コンクリート板が138メートルにわたって落下し、走行中の複数台の自動車が巻き込まれて9人が死亡するという日本の高速道路史上、最悪の事故となった。

こうしたインフラ事故を繰り返さないために、理化学研究所(理研)や量子科学技術研究開発機構(量研=QST)などで構成する研究チームは、国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として「レーザーによる検査技術」を研究受託した。この成果を事業化して社会実装するために17年8月に設立されたのが、理研発ベンチャーでQST認定ベンチャーでもあるフォトンラボ(埼玉県和光市)である。

ハンマー・耳をレーザーで再現

レーザーでインフラ点検を自動化「株式会社フォトンラボ」
従来の高所作業車による点検作業

道路トンネルの老朽化点検方法はこれまで、高所作業車に乗った検査員がトンネル天井を目視して危険箇所を推定し、ハンマーでコンクリート表面をたたいて、音の違いで判断していた。コンクリートの剥離や浮きなどの異常と判断すれば、除去・補修する。ただこの方法だと、点検作業そのものに時間がかかる。加えて、検査員の経験と勘に頼るため、判定結果に個人差が出るほか、高所作業に伴う墜落などの危険性があるという弱点があった。

新技術ではまず、すでに運用実績のある「走行型トンネル計測システム」を使い、走行する車両に搭載した画像計測装置で危険箇所を推定する。その上で、新たに開発した「レーザー打音検査装置」を用いる。毎秒10~50回のパルスレーザー照射により、トンネル覆工面のコンクリートを振動させ、ドップラー効果を利用して振動を計測・判定し、欠陥箇所を画面上にマッピング表示する。

「ハンマー」に相当する振動励起レーザーと、「耳」に相当する振動計測レーザーの2種類を用いて表面の振動を解析し、内部欠陥による「共振」が起これば、打音異常と判定する仕組みだ。これにより、検査員の技量差を解消できるほか、トンネルの健全性に関して定量的に記録を残すことができ、例えば数年前の記録と比較することで、劣化の進行度を予測することも期待できる。遠隔・非接触で点検するため危険性は低く、作業時間は4分の1、コストは3分の2に短縮される見通しだ。

勘と経験をデジタル化

開発した「レーザー打音検査装置」
開発した「レーザー打音検査装置」

「従来のハンマーによる打音検査は、どのような音なら異常なのかという定量的な基準がなかった」。こう振り返るのは、フォトンラボの木暮繁代表取締役社長。異常かどうかの判断は検査員の勘と経験に委ねられ、その知見を後輩に受け継いでいく“暗黙知”の世界。そこで研究チームは、人による打音検査作業を撮影し、人がどうやって判断しているかをデジタル化。人の判定基準と同等以上の能力を持つAI(人工知能)を組み込んだ判定ソフトを開発した。

日本の道路トンネルや橋梁などのインフラは、高度経済成長期の1960年代から70年代に建設されたものが多い。完成後50~60年は経過しており、老朽化対策は待ったなしだ。ところが、少子高齢化の進展に伴い、点検の担い手となる検査員の高齢化と人手不足は急速に進んでいる。今の段階で検査員の勘と経験をデジタル化し、人と同等以上の診断技術を確立してインフラ点検を自動化しなければ、全国に総延長約5000キロメートルもある道路トンネルの老朽化点検は進まない。

出口戦略は大企業へのM&A

走行型トンネル計測システム
走行型トンネル計測システム

さらに大きな課題もある。インフラ計測のニーズは極めて高い半面、その市場性はそれほど大きくない点だ。国土交通省の試算によると、トンネル、橋梁に加え、ダム、プラント、空港・港湾などコンクリート構造物への投資額は、今後30年間で195兆円に上るという。しかしその大半は構造物の更新・補修需要で、このうち計測市場は9兆円、年間では3000億円に過ぎない。道路トンネルに限ると年間100億円ほどで、「ビジネスベースでうまみがあるわけではなく、大企業が相次いで参入する分野ではない」と話す。

このため木暮社長は「会社を設立した当初から、出口戦略はIPО(株式上場)ではなく、インフラ分野への新規参入を戦略として持つ大企業へのM&A(事業売却)と決めていた」と言い切る。2019年に埼玉りそな銀行が出資したのに続き、21年にはJFEエンジニアリングと東京センチュリーが第三者割当増資により出資した。22年度に国家プロジェクトが終了し、この成果が国土交通省の「定期点検要領」に反映され、市場の拡大が見込める段階で、大企業に事業そのものを売却する計画だ。

「我々のようなベンチャーにインフラ点検を全国展開する体力はない」と木暮社長。国の予算を使って国立研究所が基礎研究を担い、事業展開段階に入れば大企業に委ねるという新たなビジネスモデルと位置付ける。事業売却後は国立研究所が持つほかの研究シーズを活用して、次の国家プロジェクトやベンチャー設立にかかわっていくという。

BtoGtoPの新モデルに挑戦

本社が入居する「和光理研インキュベーションプラザ」
本社が入居する「和光理研インキュベーションプラザ」

木暮氏と理研の出会いは約10年前だ。群馬大学工学部を卒業後、機械メーカーを経て、建築・オフィス企画会社や技術系コンサル会社を経営していたが、フォトンラボとは別の理研ベンチャーの経営支援を頼まれたことに端を発し、理研の客員技師として研究チームの一員となった。フォトンラボを設立する段階で、経営を経験した人がほかにいなかったため、社長に就任した経緯がある。国交省の点検支援技術カタログ施策(国が技術目標を示し、民間企業が挑戦する制度)の優良対応企業としてデジタル臨調に出席するなど、業界内での評価も得ている。

木暮社長は「国家プロジェクトの世界では、理研・量研のブランド力は極めて大きい」と強調する。中小機構が理化学研究所、埼玉県、和光市と連携して運営するインキュベーション施設「和光理研インキュベーションプラザ」に2年前に入居したのも、「理研との連携関係を世間に明確に示すことが重要」と考えたからである。

「これまでの人生でBtoB(企業向けビジネス)やBtoC(消費者向けビジネス)では、ある程度の成果を挙げたと自負している」と木暮社長。「今度は理研・量研という最高のブランドとコラボレーションして、BtoG(政府)toP(国民)というまったく新しいビジネスモデルに挑戦する」と意気込む。

企業データ

企業名:株式会社フォトンラボ
Webサイト:http://www.photon-labo.jp/
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