2022-09-09 国土技術政策総合研究所(国総研)
国総研資料 第 1216 号より
【概 要】
国内の係留施設の老朽化に伴い,港湾施設の維持管理における補強・補修対策の優先順位を合理的に策定する必要がある.その判断基準となる指標として,港湾施設が有する保有性能(港湾施設が実際に有する性能)が挙げられるが,海外のいくつかの既往研究ではその具体的な指標として信頼性指標βを用いた評価が試みられている.本研究は,船舶接岸時における桟橋鋼管杭の応力照査を対象に,設計段階のみではなく施工から維持管理段階において得られる各種データの保有性能(信頼性指標β)に対する更新可能性について触れつつ,施工段階に得られる桟橋鋼管杭の降伏応力や,維持管理段階の点検診断結果から得られる桟橋鋼管杭の腐食速度を代表的に選択した際の,設計段階から施工・維持管理段階における信頼性指標βに関する時系列的信頼性解析の試行結果を示すものである.
主要な結論は以下の通りである.
・ 施工段階で得られたミルシート(鋼材検査証明書)を参考に,降伏応力の特性値より1.2倍以上の降伏応力を有する鋼材が利用されたことを想定した信頼性更新を行った.その結果,降伏応力に関する不確実性の低減効果も反映され,施工段階における桟橋鋼管杭の信頼性指標βは設計段階での結果と比較して増加した.
・ 桟橋鋼管杭の降伏応力と杭の施工位置の関係が明瞭でない場合は,施工段階における施設の保有性能自体に不確実性が生じる要因となる.その不確実性の低減には,設計後に入手できる各種データのトレーサビリティの確保が重要である.
・ 施設の保有性能を統一の指標を用いて供用期間中にわたって評価する手法の一例として,桟橋鋼管杭応力に対する時系列的信頼性解析を適用した.桟橋杭応力に関する信頼性指標βの低下速度に及ぼす鋼材腐食速度の影響は大きく,各種点検を通じた維持管理段階における腐食速度の把握も,桟橋鋼管杭の保有性能の評価において重要な要素である.
【担当研究室】
港湾施設研究室
【執 筆 者】
三上 康光,竹信 正寛,菅原 法城,宮田 正史,辰巳 大介,本間 翔太,宮島 正悟