国総研レポート2020(研究期間 : 平成 29 年度~令和元年度)
国土技術政策総合研究所 管理調整部 国際業務研究室
主任研究官 飯田 純也
(キーワード) Maritime Single Window,港湾 EDI,港湾関連行政手続,国際標準化
1.はじめに
国際海上交通簡易化条約(FAL条約)附属書の2016年改正によるMaritime Single Window(MSW)の設置
の事実上の義務化、EU法令によるEU加盟国に対するMSWの設置義務化、また世界各国でのMSW構築の動きなど、世界においてMSW構築への取り組みが推進されている。MSWとは、船舶入出港に関する港湾関連行政手続を対象とした電子的なワンストップ窓口であり、複数の行政機関への手続を一元的に処理する情報システムを示す(図-1 参照)。
世界的にMSWの構築への取り組みが進められるなか、FAL条約を所管する国際海事機関(IMO)簡素化委員会(FAL委員会)では、 FAL条約附属書の2016年改正の確実な履行を締約国政府に促すため、2017年開催された第41回FAL委員会会合(FAL41会合)において、2011年に策定された「MSW構築のためのガイドライン」(以下「MSWガイドライン」という。)の全面改定を議決した。MSWガイドラインは、MSWを構築する方法を定めた事実上のデジュール標準である。
図-1 MSWの概念
2.改定作業へのわが国の主体的貢献
MSWガイドラインの改定作業にあたり、FAL委員会の会期間において、インターネット・メールを活用した書類ベースの審議を行う、会期間通信部会(Correspondence Group: CG)が設置されることになった。CGの設置にあたり、CGを運営し議論を主導する役割のコーディネーターに筆者が選出され、日本国政府によってコーディネートされることになった。筆者は、2017~2019年の間に開催されたCGの議論をコーディネーターとして主導し、2019年にMSWガイドライン「Guidelines for Setting up a Maritime Single Window」(文書番号FAL.5/Circ.42)がIMOにより回章文書として発効された。
3.研究成果の反映
改定作業にあたり、我が国で既に構築・運用されているMSW(我が国MSWの名称:NACCS)の考え方及び
筆者の研究成果を活かしている。具体的には、我が国MSWをベースとしたミャンマーへの海外展開のレビュー1)を踏まえて、運用保守の章を新たに設けたり、諸外国のMSWと通関システムとのシステム間連携事例2)に基づき、両システム間の概念分離とシステム構成図をMSWガイドラインに反映したりしている。
CGでのコーディネートという役割を通じて、上記のように我が国の国際展開事例やMSWの機能をMSWガイドラインに積極的に反映することとなり、結果的に、MSWガイドライン策定を通じて我が国のMSWの考え方を国際標準化するという社会実装につながったといえる。
4.改定されたMSWガイドラインの概要
改定MSWガイドラインの構成(目次)を図-2に示す。
CGでの議論を通して、MSWガイドラインの改定の全体方針は、全体構成の見直し、記載分量の削減、急速に発展する情報技術の適用を可能とする汎用的な情報技術内容への変更、MSW各国事例記述向けテンプレート作成を改定の柱とし、この方針に則って各章節が執筆されている。
改定ガイドラインの主な特徴は以下の通りである。
(1)FAL条約附属書の2016年改正への対応
改正に伴って、締約国政府は、港湾関連行政手続を処理する情報システムの設置義務が課され、MSWの設置が勧告された。加えて、紙申請の受理義務が廃止された。これら条約附属書の改正内容を反映し、電子申請を前提とした記述に改定した。
(2)MSWと輸出入・通関手続一元化システム(TSW)との概念分離
貿易に係る行政手続という広い観点からは、MSWとTSWを統合することが理想的であり、わが国のNACCS
のような統合事例も存在する。一方で、両者を統合して構築する場合、MSWとTSWの対象ユーザーの違いや省庁間の横断的連携の難しさなどの課題があることから、早期にMSWを構築するという観点からは,両者を分離して構築する方法を取る方が望ましいと考え、現実的な観点を考慮して両者の概念を分離した。
(3)全体的なアプローチ概念
全体的なアプローチ概念とは、MSWを構築するにあたっての設計の基本的な考え方である。特に、
・reporting once only(一度のみの申告原則:複数の行政機関への同じ情報の重複申請を排除すること)
・reuse of data(データ利活用)
を重要な点として指摘している。
図-2 MSWガイドラインの目次構成
5.おわりに
「インフラシステム輸出戦略」には、わが国のMSWの国際展開が掲げられている。わが国は、ミャンマーやカンボジアへのMSW構築支援を行ってきている.世界におけるMSW構築への取り組みを考慮すると、MSW未導入国からわが国に対して更なる支援要請が寄せられることも考えられる。わが国のMSWの考え方を反映したMSWガイドラインは、わが国のMSWの更なる国際展開の支援ツールとなることが期待される。
なお、本稿の詳細な内容は、国土技術政策総合研究所資料としてとりまとめる予定である。
☞詳細情報はこちら
1) 飯田他:港湾行政手続システムの国際展開に関する一考察、土木学会論文集F3、Vol.72、No.2、I_122-I_139、2016。
2) 飯田他:英国における港湾関連行政手続システムの試行的構築・運用の分析と考察、運輸政策研究(早期公開版)、pp.1-12、2018。