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災害や老朽化への「備え」を考慮した広域道路 ネットワークの整備と今後の展望について

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JICE REPORT 第38号 国土技術研究センター

2021-01
道路政策グループ上席主任研究員 丸山 大輔
道路政策グループ首席研究員 中村 滋
道路政策グループ研究員 池下 英典

1 はじめに

2011(平成 23)年 3 月 11 日に発生した東日本大震災において、我が国の広域道路ネットワークの根幹を形成する高規格幹線道路は、被災地での避難路の役割を果たした他、ネットワークとして広域の迂回機能を発揮した。一方、2016(平成 28)年 4 月に発生した熊本地震や平成 30 年7 月豪雨では土砂災害によりネットワークが途絶し、道路構造面からの課題も浮き彫りになった。
2020(令和 2)年 6 月にまとめられた「新たな広域道路ネットワークに関する検討会」中間とりまとめにおいては、広域道路の階層化と災害に強い道路が強調され、災害時でも人流・物流を途絶しない道路ネットワーク構築の方向性が示された。
これらを踏まえ、広域道路ネットワークの耐災害性を強化し、国土強靭化を実現する上での災害に備えたリダンダンシーの確保、ルート選定や構造など、ネットワーク面や構造面、災害前の対策や災害後の行動等の災害への「備え」面での具体的に留意すべき点について政策提言を行う。

2 東日本大震災で高速道路が果たした役割

東日本大震災では、広域的な高速道路ネットワークを活用して、全国から救援部隊などが被災地や被災地周辺の活動拠点に駆けつけ、救助・救援活動が行われた。
震災によって、東北自動車道や常磐自動車道などが広範囲にわたって被災し、被害箇所約 350 箇所、延長 854km にわたり交通に支障が生じたが、地震翌日の 3 月 12 日の早朝には東北自動車道等の仮復旧が完了 1)し、その後のくしの歯作戦の“軸”として緊急車両の通行を支えた。
また、関越自動車道や北陸自動車道、磐越自動車道をはじめとする高速道路は、中部地方以西や日本海側の港湾などとくしの歯作戦の“軸”を連絡する緊急輸送路として、大きな役割を果たした。
さらに、一般道の国道 45 号が津波で寸断される中、津波を考慮して整備された三陸沿岸道路は、住民避難や救援のための「命の道」として機能した(図 1)。


図 1 緊急輸送路として機能した三陸沿岸道路(釜石山田道路)2)

仙台東部道路の仙台若林 JCT ~名取 IC 間においては、盛土構造(7 ~ 10m)の道路上に約 230 人が避難し、津波からの難を逃れ避難空間としての機能を果たした。
また、盛土構造は内陸部への津波・がれきの進入を抑制するなど、防災・減災機能も発揮した 3)。

3 東日本大震災後の災害における課題と対応

東日本大震災後も、激甚な自然災害が頻発しており、主要な幹線道路が被災して通行止めが発生している。しかしながら、ネットワークによるリダンタンシー確保や往復 4 車線道路の暫定対面通行等により、速やかに交通機能を確保し、復旧活動を支援した事例が見られる。ここでは、具体的な事例とともに災害における課題と対応を述べる。

3.1 ネットワークによるリダンタンシー確保

「平成 30 年 7 月豪雨」では、東西の大動脈である山陽自動車道が、道路区域外からの大量の土砂流入等により通行止めとなった。しかしながら、中国自動車道や山陰自動車道が迂回路として機能(図 2)し、広域交通が確保された。中国自動車道は平常時の約 5 倍、大型車は約 10 倍の交通量となり、リダンタンシー機能を発揮し 4)、道路のネットワーク機能の強化の重要性が示された。


図 2 図 2 山陽自動車道 被災状況 5)

広域的には迂回路が確保された一方で、広島空港へのアクセスとしては、山陽自動車道・広島呉道路ともに被災し、広島市との高速道路アクセスが途絶した。早期の通行止め解除が求められ、通行止め開始から 8 日後に河内 IC ~広島 IC間の通行止めを解除し、山陽自動車道が全通した 4) 6)。
一方、2016(平成 28)年 4 月に発生した熊本地震では、盛土の崩壊、切土のり面の崩壊、橋梁の損傷、高速道路上の跨道橋の落橋などで、熊本県内の緊急輸送道路約 2 千 kmのうち 50 箇所で通行止めが発生した。この災害によるネットワーク途絶が契機となり、平常時・災害時を問わない安定的な輸送を確保するために、道路法が改正され、2018(平成 30)年の重要物流道路制度が創設された 7)。

3.2 往復 4 車線道路の一時的な対面通行運用

「平成 30 年 7 月豪雨」では、広島呉道路において、道路区域外からの土石流により本線盛土が崩壊した。当該道路は、暫定 2 車線整備であったために上下線ともに通行止めとなり、緊急車両の通行空間すら確保できず、施工ヤードの確保も困難であった。このため、通行止め解除までに約 2 ヶ月半もの期間を要した 6) 8)。中国地方は広島県を中心に真砂土が広範囲に分布しており 9)、非常に強い降雨があると激甚な土砂災害が発生しやすい。今回の豪雨では土砂災害により鉄道、車道が寸断された。広島呉道路の被災箇所近傍や、広島市と呉市を結ぶ国道 31 号(全長約 36km)の背後地には、1907 年の洪水・土石流の被害を記した「自然災害伝承碑」が 3 基も設置されており、過去にも同様の災害があったことが伺える。なお、坂町小屋浦地区に設置された碑には、土石流で 44 人が亡くなった等の旨が記載されている(図 3)が、十分知られておらず、危険性も認識されていなかった 10)。
一方で、高知自動車道では道路区域外の山腹斜面が崩落し、大量の土砂とともに上り線の橋梁上部工が流出する事象が発生したが、当該区間は往復 4 車線の上下線分離構造で、被災しなかった下り線の 2 車線を利用した対面通行運用(図 4)で早期の交通解放が実現できた 11)。
これらの事例から、災害から速やかに復旧・復興するためには、交通量によらず 4 車線確保が有効であることが示された。


図 3 広島呉道路 被災状況 4)と自然災害伝承碑 10)


図 4 高知自動車道 被災状況 4)

4 新たな広域道路ネットワークのあり方

東日本大震災やその後の災害を踏まえて、新たな広域道路ネットワークのあり方について、各地で議論が進められている。全国的な考え方としては、「新たな広域道路ネットワークに関する検討会」において、高規格幹線道路ネットワークを補完する、時代に即した道路ネットワークのあり方について議論が重ねられ、2020(令和 2)年 6 月に中間とりまとめ 12)(以下、中間とりまとめ)が公表された。本章では、その中で整理された新たな広域道路ネットワークのあり方を、災害への対応の観点を中心に述べる。

4.1 広域道路ネットワークに関する現状認識

中間とりまとめでは、トラックドライバー不足の解消と国際競争力強化の観点から国際海上コンテナ車(40ft 背高)が支障なく通行できる道路ネットワークの構築が求められている現状や、都市間の速達性や主要な空港、港湾、鉄道駅等と高規格幹線道路等とのアクセス性の確保の必要性、道路の維持管理の社会的影響の最小化、新技術の積極的な活用に言及している。
喫緊の課題となっている激甚化・頻発化する災害への対応の観点からは、さきに示した東日本大震災で広域的な高速道路ネットワークが、救助・救援活動や早期復旧のための緊急輸送路として大きな役割を果たした。一方、高速道路の暫定2 車線区間は、4 車線以上の区間に対して、全面通行止めとなる時間が長くなっている。また、事前通行規制区間は直轄国道でも全国に約 200 箇所存在しており、災害リスクは高い水準にある。その他に、海岸沿岸部の縦断軸や内陸部の横断軸を中心に、ミッシングリンクとなる未供用区間が存在(図 5 中の緑線、橙線)しているため、リダンダンシーを確保できず、大規模災害時に到達が不可能となる地域や遅れが出る可能性のある地域が存在しており、リスク対応が急務となっている状況が示された。災害への対応の観点から、4 車線化やミッシングリンクの解消によるリスクへの対応が念頭に置かれた整理となっている。
これらの交通課題を把握するとともに、今後の広域道路ネットワーク計画の再構築が必要であるとしている。

図 5 交通代替(多重性)の確保状況(全国の防災機能評価)13)

4.2 今後の広域道路ネットワークのあり方

現状の交通課題の解消を図る観点と、新たな国土形成の観点の「両輪」で、広域道路ネットワークの効率的な強化が必要とされている。災害時のリダンダンシーなどの課題の解消を図るため、その方向性として示されている基本戦略は、以下の 5 つである。
①中枢中核都市等を核としたブロック都市圏の形成
②我が国を牽引する大都市圏等の競争力や魅力の向上
③空港・港湾等の交通拠点へのアクセス強化
④災害に備えたリダンダンシー確保・国土強靱化
⑤国土の更なる有効活用や適正な管理
これらの基本戦略を実現するためには、全国的な広域移動を支える高規格幹線道路を補完し、また、それと一体になって機能する広域道路ネットワークが必要である。広域道路ネットワークは、連絡する拠点の重要性や、通過する交通の特性により、個々の道路に求められるサービスレベルは異なることから、広域道路(仮称)、特定広域道路(仮称)の 2階層で計画すべきとし、その機能・役割として以下の 3 点が求められている。
①平常時・災害時を問わない安定的な輸送
広域道路については、平常時・災害時を問わず、人・モノの移動を安定的に確保することが求められ、いかなる事象でも通行止めによる社会経済への影響を最小限にする必要がある。災害時には、早期復旧体制の確保、事前通行規制区間等の防災対策や、想定される地震を踏まえた耐震対策の優先的・重点的な実施が必要である。さらに、我が国の物流を支える重要な道路としての性格上、大型車の集中に対応した舗装や橋梁など構造物の長寿命化を図ることも重要であり、老朽化対策の優先的・重点的な実施が必要である。
②交通事故に対する安全性
広域道路においても、交通事故の発生による通行止めの影響も最小化する必要があり、事故発生集中箇所での発生要因に応じた対策や、関係機関と連携した速やかな事故対応が必要である。
③自動運転等の将来のモビリティへの備え
将来、直轄国道をはじめとする幹線道路でも、レベル 2やレベル 3 の自動運転車の普及が見込まれることから、道路インフラ側の機能強化など将来のモビリティの導入に必要な備えを講じる必要がある。

5 耐災害性を踏まえた道路ネットワークに必 要な具体的な視点

ここまで、東日本大震災及びその後の災害発生における課題と対応、さらにそれらを受けた形での広域道路ネットワークの構築について紹介した。中間とりまとめの考え方を元に道路の階層化を行い、災害に強い広域道路ネットワークを構築していくためには、今後、以下の 3 つの視点からの具体的な検討が必要であると考える。
①道路区域外の地形・災害情報の活用
前章で述べた、災害に強い広域道路ネットワークを構築していくためには、災害の発生による道路への影響を可能な限り軽減することが必要である。この点で、第 3 章でも紹介したように、当該道路周辺の過去の災害発生状況を十分熟知しておくことが重要であると考える。
3.2 節で紹介した広島呉道路では、真砂土の広範囲な分布が道路の被災の影響要因であった。このことは、近隣の自然災害伝承碑からも学ぶことができる。自然災害伝承碑は、全国で 646 基(2020(令和 2)年 11 月 12 日時点)が地理院地図で公開されており、国土地理院が全国の自治体と連携して整備を進めている 14)。道路ネットワーク計画策定の際は、地理院地図を活用し、沿道や背後地の土地の成り立ちや自然災害伝承碑などの災害履歴やその教訓を十分に認識して考慮に入れる必要がある。また、各地で策定されている発災後を想定した初動体制の「備え」となる道路啓開計画 15) 等においても、さきに示した災害履歴や教訓を活かし、災害からの迅速な復旧と、早期の日常生活・経済活動の再開の両面を目標に据え、策定すべきである。
②ネットワークとしてのリダンダンシーの確保
災害時にも確実に代替経路が確保されるよう、ネットワークのリダンダンシー確保の観点も重要である。図 5 で示されている交通代替(多重性)の確保状況を見ると、災害時に到達不可能なエリアが明示されている。地形条件などから道路ネットワークが集約され事実上1本の経路となっている箇所は、被災時に社会・経済への影響が甚大であると懸念される。ネットワーク計画策定にあたっては、これらの点も十分考慮して、4 車線化・6 車線化以外にダブルネットワーク等による広域的な代替経路の設定を行い、リダンダンシーを確保することが必要である。
③物流上重要な道路の予防保全を意識した管理・サービス水準の明確化
3.1 節で言及した重要物流道路制度の導入及び 4.2 節で紹介した広域道路ネットワークの機能・役割を鑑みると、今後は、物流上重要な道路に大型車の利用が集中することが考えられる。
これにより、舗装や橋梁などの道路構造物に、これまで以上に修繕の頻度が高まることによる通行止めの増加が発生すること等により、道路ネットワーク全体のメンテナンスに支障を来し、平常時・災害時を問わない安定的な輸送が実現されなくなる懸念がある。
そこで、物流上重要な道路については、道路構造物の強化を十分に考慮し、管理・サービス水準を明確化していくことにより、道路ネットワーク全体のライフサイクルコスト(LCC)抑制を図るなど、予防保全をより意識した検討が必要と考える。

参考文献

1) 東日本高速道路株式会社:東日本大震災による高速道路の被害と復旧状況について(平成 23 年 3 月 18 日発表),https://www.e-nexco.co.jp/pressroom/tohoku_eq/restoration.html
2) 国土交通省東北地方整備局:3.11 復興道路・復興支援道路情報サイト,http://www.thr.mlit.go.jp/road/fukkou/content/summary/bousai.htmlをもとに作成
3) 国土交通省東北地方整備局:「復興道路・復興支援道路」着工~早期復興のリーディングプロジェクト~,道路,通巻 852 号,p.33,公益社団法人日本道路協会,2012.
4) 国土交通省社会資本整備審議会道路分科会第 66 回基本政策部会:資料 1 平成 30 年 7 月豪雨について,p.6,p.10,2018.をもとに作成
5) 国土交通省交通政策審議会交通体系分科会計画部会第 8 回交通政策基本計画小委員会:資料 3 道路行政における最近の話題及び交通関連施策について,p.18,2020. をもとに作成
6) 西日本高速道路株式会社:平成 30 年 7 月豪雨に伴う NEXCO西日本管内の高速道路の被災状況と復旧概要,高速道路と自動車,第 61 巻 第 11 号,pp.38-41,公益財団法人高速道路調査会,2018.
7) 国土交通省社会資本整備審議会道路分科会第 66 回基本政策部会:参考資料 2 重要物流道路制度の創設について,p.2,2018.
8) 小笹浩司:最近の西日本高速道路における災害とその対応,高速道路と自動車,第 62 巻 第 9 号,pp.20-22,公益財団法人高速道路調査会,2019.
9) 国土交通省水管理・国土保全局砂防部:砂防 平成 30 年 7 月豪雨による土砂災害概要〈速報版〉Vol.5 平成 30 年 7 月 23 日時点,p.2,2018,https://www.mlit.go.jp/river/sabo/jirei/h30dosha/H30_07gouu_gaiyou1807232000.pdf
10) 国土交通省国土地理院:あなたの街の自然災害伝承の碑を地図に載せてみませんか?,https://www.gsi.go.jp/common/000214774.pdf をもとに作成
11) 中島和樹,井田和輝:平成 30 年 7 月豪雨により被災した高知自動車道 立川橋の復旧について,高速道路と自動車,第 62 巻第 9 号,pp.23-26,公益財団法人高速道路調査会,2019.
12) 新たな広域道路ネットワークに関する検討会:「新たな広域道路ネットワークに関する検討会中間とりまとめ」,https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/road_network/index.html
13) 新たな広域道路ネットワークに関する検討会:第 1 回新たな広域道路ネットワークに関する検討会 資料 3,p.9,2020.
14) 国土交通省国土地理院:自然災害伝承碑,https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi.html
15) 例えば、道路啓開計画について以下で紹介野平勝、丸山大輔:大規模災害時における道路啓開計画の取組について,JICE REPORT 第 30 号,pp.58-63,2017.1.

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